人生のおつまみ

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【読書・感想】出雲のあやかしホテルに就職します 硝子町 玻璃

 子供の頃から「幽霊」が見える女子大生の時町見初。就職活動が上手くいかない中で、大学センターから、出雲のホテルへの求人票が紹介されます。そこは幽霊が出ると噂のオバケホテルなわけなんですが、「妖怪」や「神様」たちが宿泊する中で、見初が自分の能力と従業員との機転で事件を解決していく話になっています。今日はこの小説のご紹介を。

大学の求人票ってすごい

 大学の求人票で、オバケが出るホテルを紹介してくれることにまずビックリしました。合格しない見初のための温情かと思ったのですけど、大学の人達はいい人達みたいなので、純粋に善かれとして紹介しています。まあ、実際には求人票ってあんまり当てにならないと言うか、眉唾みたいな噂話も多いので、ある程度は事務的に行動したのかなと。

 主人公の見初のエピソードもあるんですけど、まず就職活動から物語が入ってくるという展開は今どきだなあと感じました。就職活動という若い人が苦しく描写を書くことで、ある程度の感情移入を持ってきたのかと。最終的に、出雲のホテルを紹介されることになるんですけど、ある種の運命的な要素もあって素敵。

 大学としては、対応にちょっと疑問があって、オバケが出るようなホテルを学生に紹介するのかなあと思いはします。噂話であったとしても、もうちょっとマシな就職先もあったはず。まあ、見初に妖怪などが見える能力があるので、その力が変わった就職先に導いているのかもしれませんけどね。そうしないと物語が始まらないわけですし。

相棒の冬緒が割と黒い

 見初の相棒の冬緒という青年がいるんですけど、見初と事あるごとに衝突します。表向きは超好青年なんですけど、見初と二人きりになると、腹黒くなって冷たくなります。ある事件を境にして、ツンデレにレベルアップするんですが、腹黒い性格を見ているとちょっと現実社会をイメージしてしまいました。
 
 腹黒い性格と言っても、そこまで卑劣ではないですから安心感はあります。作品によっては、冷酷・卑劣すぎて最悪といったキャラもいますけど、ライトノベルよりなこの作品ではそこまでのキャラはいませんから。その点は安心して読めましたし、ストレスが溜まることがなかったので、スラスラ読むことができました。
 
 冬緒は最終的にツンデレになります。見初が鈍感で段々と冬緒が可哀想になってきます。ある程度の感情を持っているのに、見初めは気づかないという。男女の関係は難しいのですが、シリーズを重ねることで、見初もある程度は冬緒のことを見ていくようになります。鈍感な見初とツンデレな冬緒は良いコンビだと思います。

「お客様は神様」という精神

 あやかし系の小説として、出雲が舞台ってあまりないと思います。鎌倉・京都・奈良などが多いのですけど、出雲は初めて読みました。私が知らないだけかもしらないですけど、神在月には神様が出雲に集まりますし、小説の中でもその描写があったりします。まさに、お客様は神様ということになっています。
 
 ただ、現実のサービス業では、「お客様は神様」というので苦しんでいると聞いたことがあります。クレーマーの時に困っているとか。確かにお客様は神様と思って仕事をするというのは納得できますけど、あくまで接客する方の言葉であって、接客されるお客さんは神様のように、何やっても許される的な精神は困ると思います。
 
 日本人の言う神様って、聖人君子のようなイメージだと思いますけど、この小説に出てくる神様も一癖も二癖もあって、対応が中々に難しい。その意味で、接客って本当に難しいなと思わせてくれます。「お客様は神様」というのが基本としてありますけど、自分なりの境界を引いておかないと、仕事が成り立たなくなってしまう。これも経験の技なんだと思います。

最後に

 出雲が舞台で、読みやすいですし、キャラも楽しかった。永遠子という、見初と冬緒の上司にあたる女性が出てきます。絶世の美女なんですけど、様々な努力をして、美を手に入れたとありました。それも、ホテルを運営していくために。そこにすごいプロ意識が見た気がします。綺麗だからといって、傲慢にならず、祖母が残したホテルを守ること。

 根底に強い信念を持ったキャラも多数出てきます。実際の一流ホテルでも同じような心構えの従業員の方が多いと思います。ただ、それが人間でも、神様でも違いはなくて、サービス業だけではなくて、すべての一流の仕事に信念って大切なんだと感じました。簡単な言葉にはできますけど、そこに到達するには、努力と経験が物をいうのでしょうね。

 あやかしがテーマの作品ですけど、ホテルの内情や運営について、色々と考えることができました。別にプロではないですけど、昔から気持ちよく過ごせたホテルは忘れませんし、働いている従業員の方もカッコいいと思っていました。そのためには、色んなアイディアや努力があって、それを上手いこと描写している作品なので、満足感がありました。