人生のおつまみ

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『伊坂幸太郎 AX(アックス)』 の感想-父親から見た妻と息子。恐妻家には家族への溢れんばかりの愛がある。

ひさしぶりに伊坂作品を読んだ。一時期浴びるほど読んでいたが、最近は読みたい本が別にあったので読む機会がなかった。とはいえ、伊坂作品は相変わらず僕の感性に合っていて、それが困惑になっていく。少し地上から浮いた世界観の中に現実的な本質を叩き込む書き方はまさに僕好みの作品だ。殺し屋シリーズと言える作品であり、たくさんの殺し屋が出てきて、その人間模様を上手く描写している。過去の作品のキャラが登場するのが伊坂作品の特徴なんだが、今回も前作、前々作を読んでいると、おっ!と思えるキャラが登場している。伊坂作品を読む時には、この『過去作品キャラ』を探すのが一つの売りであり、楽しむコツともなっている。伊坂作品の常連もいれば、特定のシリーズ限定のキャラもいたりするのが面白い。


今回思ったのは、妻に弱いのだけど、凄まじい愛情を家族に注ぐ父親が描かれているという点。モダンタイムスでは恐妻家の主人公であったが、妻の溢れんばかりで狂気じみた愛情が読み取れた。殺し屋なのに、家ではごく普通の夫というギャップが今回の魅力。伊坂作品では、夫が息子に愛を持って接するものが多い。『重力ピエロ』『陽気なギャングが地球を回す』などメンタルが非常に強い父親像が描かれている。作品的には、殺し屋同士のバトル要素もあるが、その本質には父親像を感じることができる。それが狙いなのかもしれないが、見事に僕はハマっていると思う。


逆に母親は、家庭でも強く、息子にも父親には強い人間として描かれている。ただ、いざ父親がいなくなると弱ってしまう部分もギャップになっている。夫が殺し屋なのを知らないという事実があるが、知らないことが良いこともある。妻に弱い夫として、主人公が描かれているが、正直な話としてはそこまでは弱くない。家族のために命をかけるし、息子のイベントにも一生懸命に駆けつける。仕事は空想の話だが、家ではどこにでもあるお父さんというのがギャップとして魅力を引き出している。何だかんだ言って、息子は父親を信頼しているし、母親も自分の夫を頼りにしている。そんな部分が魅力である。


今回の話は、『魔王』のプロットと少し似ている。最終的に視点が息子になり、父親の真相を探っていく。ただ、殺し屋の仕事については知らないくて、ただ、自分のカッコいい父親がいたことを受け止めることになる。息子って父親のことを知っているようで知らないことが多い。きちんと面を向けて話す機会も無い場合が多いし、男って背中で魅せる!的なことがある。大人になってから父親の真実・事実を知る事が多いけど、息子視点で読んでいると、自分のことをどれだけ愛していたかが分かるようになっていく。家族で引き継いでいくもの、魂みたいなものがあると思う。

AX アックス (角川文庫)

 

AX アックス (角川文庫)

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重力ピエロ (新潮文庫)

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