人生のおつまみ

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東野圭吾小説のあらすじと感想を5つ言及する。ミステリの面白さとは?

大学生の頃から読み出した東野圭吾さんの小説。面白い作品が多いけど、僕としては初期の頃が好きだったりする。最近の作品もいいのだけど、少しダークで笑いある小説が好みだった。ということで、今回は東野圭吾小説を一つ一つ言及していく。

①『秘密』は第二の人生への嫉妬と憧れがある

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)

 

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。

東野小説で2番目に記憶に残っている作品がこれである。男女・夫婦の考え方の違いが如実に描かれている。これって、男女の物語なんだけど、もし立場が逆だったらどうしようと思った。作品中だと妻が娘の身体に乗り移って、ラストにある男性と結婚するのだけど、普通ではありえないからこその魅力がある。夫からしたら妻が他人の男性と結婚するのだけど、身体は娘だからとても複雑な感情になると思う。感想サイトなどを見ると、若い頃に戻れるなら、別の異性と結婚するのは当たり前じゃないかみたいな意見もあったように思うけど、第二の人生があるなら、考え方が変わってしまってもおかしくはない。男性視点だと、これが女性視点だとまた話が変わってしまうわけで、かなり深い小説になっている。

②『悪意』は人の憎悪は子供時代の出来事で決まる

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2001/01/17
  • メディア: 文庫
 

有名小説家の日高邦彦が自宅で他殺体となって発見された。刑事の加賀恭一郎は、日高の親友である児童小説家の野々口修が書いた「事件に関する手記」に興味を持つ。加賀は聞き込みや推理を通して、野々口の手記に疑問を抱くようになる。やがて犯人が明らかになるが、犯人は犯行の動機を決して語ろうとはしないのだった…。

東野作品の中でも、何回も繰り返し読んでしまった作品。たった一つの文でその人の印象が変わってしまうのが恐ろしかった。ただ、一番気になったのは、憎悪の根源は子供時代にあるという点。犯人の動機の根幹は幼少時代に植え付けられた考え方にあった。母親のある考え方によって、子供の思考が歪められる。それは普通は抑えられるが、自分の人生、そして親友の大成功を目のあたりにしてふつふつとよみがえってしまう。作品中では、『悪意』の籠った回顧録が世間に出回り、犯人に対して肯定的な印象が世間を席巻するが、ラストにはそれがまったくのでたらめだったことが分かる。ネットのない時代で、今のSNSの隆盛を思わせる、そんな作品となっている。 

③『魔球』は家族への愛とプロ野球への夢の両立は難しい 

魔球 (講談社文庫)

魔球 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1991/06/04
  • メディア: 文庫
 

開陽高校硬式野球部の主将である北岡が、愛犬と共に殺された。その試合で須田が投げたという「魔球」がキーワードとして浮かび上がってくる。東野青春ミステリーの代表作。

野球は大好きだ。球場に観に行くこともある。ただ、ドラフトにかかるまでの高校球児の人生を考えると切なくなってしまう。どんなに人生を懸けても、一つの怪我ですべてが無かったことになってしまう。この小説では、そんな残酷な現実をリアルに表現した内容になっている。親のために一生懸命頑張るのだけど、怪我があるだけでドラフトにかかる可能性は薄くなってしまう。プロ野球とはいえ、怪我リスクのある選手はとりにくい。怪我があっても、多額の契約金のために隠すだろうという思考は容易に想像できるが、それが優秀な選手であるほど人生を懸けたものになってしまうのは何と悲しいことだろうか。どんなに家族を愛してもいても、夢を叶えるためには自分を偽る必要も出てきてしまう。

④『聖女の救済』は復讐心からの救いが印象に残る

聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2012/04/10
  • メディア: ペーパーバック
 

男が自宅で毒殺されたとき、動機のある妻には鉄壁のアリバイがあった。湯川学が導き出した結論は虚数解。驚くべき事件の真相とは?

女性は怖いという意見よりも、旦那がひどいの一言である、そんな印象を読んだ時にもった。自分の子孫を残すためだけに合理的になり、女性が精神的に傷ついても問題にしない。それをIT社長という言葉に込めた東野さんはすごいなあと感じてしまう。イメージを有効に使っているようだが、犯人は親友の仇を取るために犯行に及ぶ。悲しいけれど、人間は人間、一人の人間なのだ。主人公のガリレオこと湯川はシリーズを重ねるごとに人間性が出てきているが、そこが魅力になってきている。東野作品としては新しい方であるが、トリックよりも動機や背景が気になるようになるところが魅力になっている。

⑤『容疑者xの献身』は恋を超えた信仰心があった 

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 

これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪。

映画化もされた作品。堤さんの演技は石神のイメージ通りでびっくりした記憶がある。ネットの感想では、最後の犯人の自首は真実の恋に目覚めたみたいな意見もあるが、僕はそうではないと思う。原作だと、犯人の娘がかなり危機的状況になるのだが、それがきっかけになったと思っている。石神の恋に見えて、実は犯人達を神様のように感じてしまった所にこの物語の本質がある。一番かわいそうなのは、犯人の娘(実際には共犯なのだけど)で、暴力を振るう父親がいなくなって、そんな自分達を命をかけて守ってくれる石神に父性を感じていた。ただ、母親はそんな石神はタイプではないので、違った男性と再婚を目指そうとする。折角出会った希望と、それを分かっていない母親、最後に自分達の罪を被って自首した石神への罪悪感からのラストの行動だったと思う。

容疑者Xの献身 (文春文庫)