人生のおつまみ

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【書評】「飛び立つ君の背を見上げる」武田綾乃著-ユーフォニアム担当の中川夏紀のスピンオフ

響け! ユーフォニアムシリーズはアニメから入った。高校3年間を描いていて、吹奏楽部を舞台にして、高校生達が奮闘する物語である。京アニがアニメ化した「けいおん!」とは違って、かなり部活内がリアルに描かれていて、レギュラーのために試験がある。そこで学年関係なく試験されてわけだが、その過程がとてもリアルなのである。


主人公で黄前久美子をメインとして話は進むのだが、まわりのキャラクターも魅力的であり、まさに吹奏楽といった構成になっている。もちろん高校生らしい場面もあるが、吹奏楽コンクールに出場するための苛烈な練習や部員同士のイザコザなどが表現されていて読んでいてワクワクするがハラハラもする。

飛び立つ君の背を見上げる 響け! ユーフォニアム


アニメ化では全員標準語を話しているが、舞台が京都の宇治ということで関西弁や京都弁が出てくる。関西に馴染んでいない人だとビックリするようだけど、舞台設定を考えると標準語というのは少しおかしいと思う。まあ、アニメ化する時には、関西弁などは個性になってしまうので、標準語の方が分かりやすいというわけである。


そのユーフォニアムの物語だが、今回は完全なスピンオフ。中川夏紀という久美子の先輩であるが、腕前は久美子よりも下だ。ただ、人望があり、頼れる先輩となっている。久美子が入る前の修羅場の吹奏楽部を体験しているだけにキャラに深みがあって、ある意味で第2の主人公ともいえるキャラである。当初はこんなに人気が出るとは思わなかったが、アニメの影響が大きいと思う。原作とアニメが上手くミッスクした結果だと私は思っている。


主人公はユーフォの黄前久美子


響け! ユーフォニアムシリーズの主人公はユーフォの黄前久美子である。経験者であり、1年生からレギュラーであるA編成メンバーに選ばれる実力者。最初からある程度完成されているキャラなのだが、個人的な悩みがあるために無双するようなキャラでもない。


むしろ、久美子達が通う北宇治高校は古豪であるが、弱小であるので久美子が活躍しやすい環境にはなっている。物語が進むにつれて久美子と接するキャラクター達が成長していく。

 

「響け! ユーフォニアム」Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2019/03/20
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意外なのは、何と言うか、久美子は機械的な印象を受けることだ。もちろん先輩と接することで感情を爆発させることがあるが、他の部員が主役のパートでは機械的に行動するキャラクターに見えて、結構意外だった。久美子よりもまわりのキャラが魅力的だったので、共感できない部分もあった。どうしても経験者だけに初心者との接し方に戸惑うこともある。


結論的に、久美子はまわりに合わせるのは非常に得意で、自分の意見を案外ハッキリ言わない主人公らしくないキャラになっていたと私は感じた。とはいえ、最強のあすか先輩との対話や最終巻ではハッキリと意見を言っているだけに、シリーズと通した伏線だったように思う。他人に合わせる機械的な久美子が、人間的な感情を出してみんなを引っ張るキャラに成長するのがこの物語の特色だと僕は思う。

 

共感できるのは中川夏紀


とはいえ、私が共感できるのは中川夏紀だ。エンジョイ勢が大勢を占めていて、コンクールでの金賞よりもみんな適当に仲良くが信条の部活だった吹奏楽部。夏紀もそやる気がなかった部員だったが、コンクール金賞を目指す部活になってからは、真面目に練習していく、ある意味でのギャップが非常に好感を持てた。カッコいい先輩になりえる資質があった。


久美子と同じユーフォニアム担当なのも影響が大きい。どうしても久美子を比較されるので、物語的に動かしやすく、劣等感から来る感情の変化を描きやすい。そもそも、久美子もあすか先輩は能力的には完璧に近いので、高校生から吹奏楽を始めた夏紀の方が初心者目線から共感を持つことができる。良いキャラはやはり共感からポイントになるのだ。

 


久美子が2年になった時には、副部長を務めている。デカリボン先輩こと部長の吉川優子を支えてながらも、 A編成メンバーに選ばれた時には読みながら安堵した。このへんはしっかりとアニメ化されていて、とても面白かった。正直、久美子達のカルテットよりも夏紀達のカルテットの方が魅力がある。


やはり、同じような辛い環境にいたキャラ同士は喧嘩したり、言い合ったりする場面が増えて、それらのシーンによってキャラクター達がすごく活き活きとし出した。彼女達は実力よりも上手くなることよりも先輩を優先しないといけない環境下で頑張ってきたカルテットであり、そこが久美子達と大きく違う点だ。そーゆーことが背景にあるというだけで、修羅場をくぐった戦士のような印象を受ける。


物語は波があった方が共感できる


久美子達のカルテットに魅力がないわけではないが、夏紀達の方が魅力があるように見えてしまう。それは凹凸コンビだったり、愛が重いコンビだったりと特色があるわけだが、久美子達は大きな喧嘩がない状態で来ている上に、吹奏楽部もコンクールを目指す意味では理想的な部活となっているからだ。夏紀達とはその点が大きく違う。


物語は順風満帆では面白いはない。面白い場合もあるが、やはり感情の勾配があった方が、感情が揺さぶられて読んでいる時の臨場感が違う。それを考慮すると、久美子中心よりも、夏紀中心の方が面白いと感じてしまうのは仕方のないことである。

 


もちろん久美子にも魅力があるが、それは3年間通しての伏線を回収しながらの面白さであり、物語でいうサブキャラの方が活躍期間が短い分、濃密にしかも素早く物語りが進んでいくので、面白さを感じやすいと思う。


夏紀達の部活生活はそれこそ波しかなかった。1年生は年功序列の厳しさ、2年生は実力主義の厳しさ、3年生は副部長としての部活運営の厳しさだ。非常に難しい問題で、夏紀達の魅力はここらへんに集約されていると感じる。気軽にすれば簡単だが、一度実力主義になったからには猛練習しないといけない。全国常連ではなくて古豪として頑張る。過酷な3年間である夏紀先輩のスピンオフからはそんな想いと、先輩・友達・後輩との関係性がより明確になるのはこの本の特色である。


最後に


ただ、記憶に残っているのは短編集の話。夏紀がカフェで希美と話す回ですね。夏紀が高校生活を思い出す中で、如何に吹奏楽部が大きかったかが分かります。部員によっては音楽への想いを断ち切れない部員もいる中でやりきったと言える夏紀はすごいなと感じた。

 

「響け! ユーフォニアム2」Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2019/04/03
  • メディア: Blu-ray
 

 
中々高校生活をやりきったと言える人は少ないのではないかと思う。全国には行けなかったわけだし、後輩はまだまだ頼りない。そんな中で自分の進路を決めてそれに進む姿はある意味で理想的な先輩と言えるではないか。デカリボン先輩は人に感情移入しすぎたり、自分を犠牲にするタイプだが、夏紀はどこか距離感を持って接するだけにカッコよく見えてしまう。読者人気が高いわけだと思うが、だからこそこのスピンオフが出版されたわけで。


理想的な副部長と言えるが、それ以上に一人の高校生として、吹奏楽部員としてとてもカッコいいと思った。1、2、3年生で全然違う環境になっていて、それに対しながらものらりくらりと躱すわけではなくて、時には喧嘩したりしながら前に進む姿は素晴らしいの一言。いつかアニメ化で見て見たいものだ。